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      研究開発リーダーの参考書16

      「作る技術」より「見る技術」


       
 東京オリンピック以前の話になりますが、カメラのレンズは
        熟練した職人によって作られていました。
        一つ一つが手作りで、高価な貴重品でした。

         製造現場で安価に1ミクロン(0.001mm)以上の精度で計測することは
        現在でも簡単ではありません。
        ましてや数十年前の製造現場では不可能に近い話でした。

        ところが、レンズの測定は「ニュートン原器」と呼ばれる
        「スタンダード」と比較する方法で、1ミクロン以下の測定ができたため、
        大昔から高精度な加工が可能でした。
        (ニュートン原器の「ニュートン」は万有引力の法則を発見した
        あの偉大な科学者ニュートンのことです。)

         おおもとの標準原器が、どのようにして作られたかは省きますが、
        日本のレンズの原器はドイツから輸入されたものが元になっているそうです。

        特に戦争当時(第二次世界大戦当時)は、双眼鏡や潜望鏡などの
        光学機器がたくさん必要となりましたので、多くのレンズが作られました。

        当時のことを知っているお年寄りにお聞きますと、
        同盟国であるドイツから潜水艦を使って「原器」を運んだそうです。
        (当時は軍の最高機密だったのでしょう・・・)それほど貴重なものでした。

         加工の途中で、レンズ表面の汚れをきれいに拭き取り、
        そのレンズに原器を載せ、原器とレンズの形状の差を測って
        修正のための加工を行います。

        以上の作業を何度か繰り返して、原器と同じ(凹凸が逆ですが)
        形状のレンズを作り上げるのです。
        ただ、当時の研磨装置は稚拙なものだったため、
        修正のための加工に熟練を要しました。

         ここで重要なことは、どのように精度の高いものでも
        「測定さえできれば、加工は可能だ」だということです。


         話をハイテクの代表であるLSI(大規模集積回路)の世界に移します。

        LSIの中でも、最もたくさん使われている「半導体メモリー」は
        アメリカで生まれ、日本が追いつき・追い越し、
        最後に韓国・台湾に追い越された分野です。

         半導体の世界には「KLA神話」というのがあります。

        LSIを作る過程でロスを押さえ生産力を高めるためには、
        欠陥検査と歩留管理が最重要課題となります。
        KLAという会社は欠陥検査や歩留管理の製品群を提供したのでした。

        このKLA社の製品群を最も上手に利用したのが韓国の半導体業界で、
        その結果として「KLA神話」といわれるまでになったということです。

         ところが、最近、少し風向きが変わってきました。

        LSIの世界は微細化(どこまで細かく加工ができるか)の歴史でしたし、
        今後も微細化の競争が留まる様子はありません。

        微細度合いは線幅で表現されているのです。
        現状の0.1ミクロン強までは、KLA神話が通じたかも知れませんが、
        次世代の0.05ミクロン(=50ナノメートル)の時代になりますと、
        予測できない欠陥や見えない欠陥を見る技術が必要となってきます。

         新しいコンセプトの「見る装置」が必要な時代になりつつあります。
        このような新コンセプトの検査装置を開発できるのは、
        レンズ職人のようなこまやかなセンスの持ち主でなければ
        無理かもしれません。

        忘れかけている、日本人の「こまやかさ」をもう一度取り戻し、
        日本だから「できる」新しいジャンルの新規事業を
        見直そうではありませんか!

                         
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