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      研究開発リーダーの参考書10

      自分を知ることの難しさ


        
後輩がどんどん昇進している中で、長いあいだ小さなグループの
        開発リーダーを続けていた「Aさん」のお話しです。

        季節はずれの人事異動があり、Aさんの直属の部長が栄転し、
        そのポストはさらに上の上司(本部長)が兼務することになりました。

        開発部の中で年長者であるAさんは、自然に部のまとめ役として
        押し出されることになってしまいました。
        もともとAさんは「交渉ごと」が苦手でしたが、本人自身の技術力も高く、
        若い技術者を育てるのも上手でしたから、歴代の部長(しかしながら、
        たいていはAさんより年下の部長でしたが・・・)から優遇されていました。

        一方、Aさんは、技術的にレベルの高い自分がいつまでたっても
        昇進しないことに不満をもっていましたので、チャンス到来!と
        張り切りました。
        さらに状況を悪化させたのは、本部長が忙しさにかまけて、
        Aさんが部の取りまとめ役となっていることを黙認したものですから、
        Aさんは実質ナンバー1となり悲劇は始まりました。

         Aさんの所属する部と他社の開発部隊が一緒になって、
        新しいプロジェクトを進めることになりました。
        当然のことですが、バックグラウンドの異なる2社が共同作業を
        するわけですから、「阿吽の呼吸」で仕事が進められる社内とは異なり、
        2社間で多くの決め事を明確にして進めなければ、
        効率よく仕事が進まないことは自明の理です。

        方向性やゴールは、トップである本部長が相手の会社のトップと
        話しをつけていますが、本当の仕事は日々の業務をどのような分担で進め、
        どこでドッキングするかということにかかっています。

        その細かい調整をAさんがやる羽目になったのです。
        部長になるのも間近だと勘違いしたAさんは、ここでミスを犯しては
        絶好のチャンスも水の泡と考え、今まで以上に曖昧な交渉をしてしまいました。
        相手が納得してくれていると思い込んだり、部下への指示が不明確で
        結果的にパートナーの会社を裏切ることになったり・・・。
        Aさんが長年培ってきた信用は地に落ち、プロジェクトも「ぐちゃぐちゃ」に
        なってしまいした。

         何が問題だったか、聡明な読者の皆さんならお分かりでしょう。

        まず、上司である本部長は、重要なプロジェクトのリーダーに
        適確者を選ばなかったことですね。
        人柄もよく、仕事もそこそこのアウトプットがあり、
        部下からの評判も悪くない。
        それなのに、同僚に比べて昇進が遅い。
        そのような人を見たときには、管理者として何が不足していたのかを、
        瞬時に見抜く力をつけなければなりません。
        以上ような観点で、この本部長は管理者を選別する能力に欠けていたと
        言わざるを得ません。

         次は、アウトプットがあるにもかかわらず、昇進が思わしくなく、
        後輩の上司に仕えてきたAさんについてです。
        Aさんは、(長い間、不満は持っていたと思いますが)何故だろうと、
        自身のことを冷静に考えたことが一度もなかったのでしょう。

        グループのリーダーは、複数の人間を一つの目的に向かって
        進ませなければなりません。
        そのためには、明快で具体的な目標を提示し、その目標に沿って
        日々の判断を行わなければなりません。
        ときと場合によっては、目標から外れる事象に対しては、
        摩擦を覚悟で切り捨てなければならない場合もあります。

         「優柔不断」という言葉があります、人は「雑念」が入ると
        気がつかないうちに摩擦を避けるものです。

        結果的にAさんは、開発リーダーからも外され、
        部下のいない担当職に降格され、
        部長になるどころか今までの地位さえ失ったのでした。

                         
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